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寅次郎がゆく!

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北岳(2日目)

気持ちのいい目覚めだった。
軽い疲労感を感じるだけで、さしたる体の痛みもない。
快適な朝だった。

昨晩の天気予報では、午前中は曇り。
ならば、ご来光は期待できまいと思っていたら…、
「富士山が出てる!」と、カップルの女性。

彼の方は早起きして、間ノ岳に行った。
凄いバイタリティーだ!
俺も間ノ岳を往復してから下山しようかとも思ったが、
寒いのでやめたのだった。
大阪のおじさんは一足先に下山した。
なので、カップルの女性と小屋脇にご来光を観にいった。

外は、やはり寒い。
(ちなみに、この時の気温はマイナス3℃だったとか…。)
けれど、人は結構多い。

あたたかいココアを飲みながら富士を眺め、ご来光を待った。
寒さをやわらげるあたたかさだった。
ちなみに、そのココア、カップルの女性におごっていただいた。
どうもありがとうございました。
とてもとてもウマかったです。
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雲海に富士山が浮かぶ。

富士山がずっと待ち構えるなか、地味に太陽が出てきた。
あまり焼けず、少々期待外れだったが、
雲海の上に頭を出した富士と太陽は、遠い記憶を呼び覚ました。



全身筋肉痛だった。
少年の夏、初めてのアルプスで迎えた朝は、
ある意味、絶望の始まりだった。

朝なんて来なければいい、つまりはもう歩きたくないという気持ちと、
その気持ちとは矛盾する、早く家に帰りたいという気持ちが交錯していた。
早く家に帰るには、すなわち、歩かねばならないのだ。
大いなる矛盾を抱えたまま、絶望の朝を迎えた。

歩くこと自体が苦行だった。
しかし、その苦行を乗り越えた先に、遥かなる…我が家があった。

絶望の先に光があると信じて、それまで経験したこともないくらいの
疲弊し切った体を少年は引き起こした。

あの時、俺達はヘッドランプを点けて、未だ明け切らぬ闇の中を歩いていた。
そして、間ノ岳の手前で、雲海に浮かぶ富士とご来光を
生まれて初めて観たのだった。

人は、その人のおかれた立場によって、ものの見方が変わる。
風景だって、その人のおかれた立場によって見え方が変わる。

同じ朝陽を見ても、捉え方、感動の度合いは異なる。
同じ人間が同じ朝陽を見ても、
燃えるような、生き生きとした赤だと思う時もあれば、
不気味な血の色だと思う時もある。

少年の日の俺と今の俺とでは、ものの見方が異なっているのか?いないのか?
独りよがりになっていないか?
不幸にも痛みを抱える人の、その痛みを感じられるか?
感じようとしているのか?

少年の頃から、いや、ガキの頃からずっと、俺は曲がったことが大嫌いだった。

最初から人の痛みがわからないのは仕方ないにしても、
それを認識しても、或は認識できる状況にありながらも
わかろうともしないヤツが大嫌いだった。

そういった気持ちが正しいとしたら、それを今も俺は持ち続けられているのか?
それを可能な限り、善なる方向に持っていっているのか?
持っていこうとしているのか?

雲海に浮かぶ富士と朝陽の美しさは、少年の頃となんら変わりはない。

果たして、俺は…。
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朝陽に照らされる北岳
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朝陽に照らされる中白根山、間ノ岳

ところどころに雪が見えた。
やはり、寒い。
陽の出ぬなか、彼は間ノ岳へと向かったのか…。
本当に凄いバイタリティーだ。
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朝食のおかず

ご来光と富士の姿を楽しんだ後、朝食をいただく。
俺らの朝食は2回目の6:05からだったが、かえって良かった。
1回目ならば、その光景をゆっくり見られなかっただろうから…。
(とは言え、食堂からも、その光景は見られるのであった。
ゆっくりは見られないだろうけど…。)

朝のおかずも必要にして充分。
とてもおいしくいただけた。
これらのおかず以外にも、シェアするカタチの”とろろ”があった。
(写真は撮り忘れた。)

食事中に外に目をやると、彩雲が見えた!
写真には写せなかったけど、とてもラッキーだった。
出来たら写真に撮りたかったのだが、パッと出て、パッと消えたのだった。

カップルの彼が無事に帰ってきて、
なんとはなしにほぼ一緒に北岳に向けて出発。
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相変わらず、富士山がよく見える。
少年は、あのテント場にテントを張ったんだなぁ…。
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北岳

こう見ると、やはりデカい!
標高差約300m、朝イチの登りとしてはちょっとツライ。
体もあたたまっていないことだし…。
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北岳を目指す登山者

前日も歩いたが、こう見ると、結構険しい。
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仙丈ヶ岳、バックには北アルプスの峰々もはっきりと見えた。

この写真ではよくわからないが、槍〜穂、乗鞍、焼岳を始め、
白馬や劔までばっちりと見えた。
もちろん、中央アルプス、それに麓の町もしっかりと見えていた。
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間ノ岳方面を望む

今日は塩見岳の姿もはっきりとわかる。
少年は、よくぞあんな方まで歩いたもんだ。
塩見に至る迄もかなりキツかったよなぁ。

頂上からの展望は、前日以上に素晴らしい。
360°の大展望が広がる。

カップルとも一緒に記念撮影。
今回唯一の自分の写っている写真となった。

下山前、頂上で、持っていた水を大地へと還す。
それまでいい負荷(+2kg)となった!?
未だ2ℓ程度背負っているのだから、もう担がなくてもいいだろう。

肩の小屋へと下ってゆく道は、北岳山荘から北岳へと向かう道よりも
幾分雪が多いような気がした。
滑らないように慎重に下った。
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鳳凰三山の地蔵岳のオベリスクもはっきりと見えた。

そう言えば、オベリスクまで行ったのも高校生の時だっけ…。
どれも古い記憶だ…。
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甲斐駒〜鋸岳の稜線

筋肉質な感じの甲斐駒はどこから見てもカッコいい!
そして、鋸岳は名前の通りギザギザだ。
近いうちに黒戸尾根から甲斐駒にも行ってみたい。
それには、また鍛えなおさなきゃ!だな。
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北岳の肩越しの富士山

昨日歩いた稜線が目の高さになってしまった。
なんとなく淋しいもんだ。
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肩の小屋を越えて、小太郎尾根方面へと向かう。

肩の小屋から小太郎尾根へと向かう道は気持ちいい。
ノンビリした中に好展望が広がる。
なんだかすごくいい雰囲気で、立ち止まっては写真を撮り、
立ち止まっては写真を撮りなんてことをしていたら、全然前に進んでいなかった。
時間があるならば、本当はお茶でもしたいところだった。
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昨日遠くから見たダケカンバを間近で見る。

葉がほとんど落ちてしまっても、ダケカンバの白い木肌は綺麗だ。

離れては会い、離れては会いといった、同じようなペースで歩いていた
カップルともこの辺でお別れとなってしまった。
きっと無事に広河原まで下山したことかと思う。
いつの日か、また山でお会いしましょう!
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御池小屋より鳳凰三山

北アルプスの鏡池ほどは絵にならないが、なかなか雰囲気のいい場所だった。
キャンプをしてみたい場所だ。
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御池小屋より北岳

ここで行動食を多めに食らった。
前日のように、ハンガー・ノックのような症状が出ないように…。
天気も穏やかで、本当に居心地のいい場所だったので、
もっと長居したかったが、下山に取り掛かった。

今迄見下ろしていた鳳凰三山が見上げるような高さになり、
樹林帯に入り、やがて、それらも見えなくなった。

黙々と広河原まで下ってゆく。

歩き続けるうちに、頭の中にあった思いも煩いも、
やがて全てがどこかに消え去る。
俺はただただ歩く。
言わば、無心になって歩く。(その瞬間が、俺は好き。)

広河原山荘に着いた。
この山行も終わりだ。

あの夏の少年を、未だ俺は忘れていないか?
あの夏の少年は、未だ俺の中で生きているか?



[コース・タイム]
北岳山荘(-/7:35)〜吊尾根分岐(8:08/8:22)〜北岳頂上(8:35/9:08)〜
北岳肩の小屋(9:28/9:31)〜小太郎尾根分岐(9:51/10:06)〜
白根御池小屋(10:46/11:08)〜広河原山荘(12:02/-)
by torajiro-joshu | 2009-10-12 23:59 | 山歩き

私、寅次郎の好きな山、温泉、食べ歩き、愛犬(パグ)等に関して気ままに綴っていきます。


by torajiro-joshu