寅次郎がゆく!

toragayuku.exblog.jp
ブログトップ

南岳〜西穂縦走(穂高岳山荘〜奥穂〜ジャンダルム〜西穂〜上高地)

a0094280_23275617.jpg
奥穂高岳山頂へ向かう途中から富士山と南アルプスが見えた。












地獄だった…。
猛り狂う猛獣の咆哮が俺を襲った。
星が瞬く静かな夜に現れた、邪悪で
獰猛な猛獣は一晩中咆哮し続けた。
闘う術を持たない俺はじっと耐えるしかなかった。




周りの登山者が徐々に起き始めた。
俺は生きていたんだ!……?
いや、朝が来たのだ。
朝が来たので、登山者が起き始めただけだ。
余りにヒドいイビキの嵐に、悪い夢をみたのだと思いたかったが、
悲しい哉、それは現実で、隣では猛獣のあんちゃんが
大音響で暴力的なイビキをかき続けていた。

それにしてもヒドいイビキだった。
余りの大音響に耐えられず、水に濡らしたティッシュを
耳に詰めてみたが、焼け石に水だった…。

恐ろしく暴力的なイビキをかく猛獣あんちゃんのおかげで、
睡眠時間は僅か1時間半位だった。
一番体力も精神力も必要とされる行程の前夜の睡眠が
僅か1時間半とは…。
睡眠不足からくる頭痛も、筋肉痛もないのは不幸中の幸いだったが、
もうこんな夜はこりごりだと思った。

北海道からのパーティの方のアドバイスに従い、
ライトを使わずとも歩ける時間に小屋を出発することにする。
小屋からの奥穂への取り付きは案外険しいからだ。
天気も安定してるようだし、明るくなってから出発し、
ペースを上げられるところを上げた方がリスクは少ないと
いった理由もあった。

ロビーで、小屋に頼んでおいた弁当を半分食べる。
朴葉寿司だった。
起き抜けでもすぐ食べられ、また美味しくもあり、とても良かった。

空が白み始めてきた。
一面の雲海が綺麗だ。
ロビーで支度をしていた北海道のパーティの方に挨拶をする。
お互いの無事を願い、いつとも知れぬ再会を誓って。

テラスでは登山者がご来光を待っている。
それを横目に俺は歩き始めた。

小屋からの奥穂への道はいきなりの急登だ。
いきなりの急登はキツい。
一歩一歩ゆっくり進んでゆく。
体があたたまる迄は辛かろう。
案外風が強く、鼻水が出そうになった。

奥穂山頂が見える頃、ご来光を迎えた。
太陽に今日の無事を祈った。

a0094280_23282630.jpg

振り返れば、歩いてきた山々もはっきり見える。
前穂の方に目をやると、雲海の向こうに富士山、南アルプスが見える。
ジャンダルムに目をやると、未だ人はいないようだったが、
馬の背には先行する登山者がいた。
きっと穂高岳山荘で相部屋だったおっちゃんだろう。
昨晩は眠れたのだろうか?
おっちゃんの上で寝てたオヤジもイビキがヒドかったからなぁ…。

間もなく頂上に着いた。
相変わらず風は強く、遮る雲は一つもない。
頂上から眺める山々は朝陽を適度に浴び、
さっきよりも更に美しい姿を見せていた。

a0094280_2328517.jpg

奥穂高岳頂上より槍ヶ岳を望む。
a0094280_23291883.jpg

奥穂高岳頂上より前穂高岳を望む。
a0094280_1655215.jpg

奥穂高岳頂上よりジャンダルム。
岩稜の向こうには朝陽を浴びたジャンダルムが悠然と構えている。
真っ直ぐジャンダルムへと向かってゆく道は、
徐々に細い岩尾根となる。

念願だった奥穂〜西穂縦走が始まる。
気を引き締め、靴ひもを締め直した。

ここで後から来た登山者に抜かれる。
狭い尾根道で、その登山者が先にゆく形となり、
必然的に自分が後からついてゆく形となった。
結果的には、これが縁で、西穂山荘まで
一緒に歩いてゆくこととなる。
これがO氏との出会いとなる。

馬の背までは何てことない登山道だが、馬の背に乗る!?や否や、
暴れ馬に乗ったんじゃないか!?と思う程細いナイフ・リッジになったと感じた。
左右がスッパリと切れ落ち、高度感も傾斜もなかなかある。
馬の背というよりはむしろ、怪獣の背のように感じた。
落ちればすぐ”バイバイ”だろうが、あまり恐怖感を感じることはなかった。
冗談を言える位余裕があったのだから…。
もっとも風がもの凄く強ければ恐怖を感じていたと思う。
恐怖感を感じないのは、あくまでも条件が良かったからに過ぎない。

O氏はテント泊で、大きなザックを背負っているのにも関わらず、
やせ尾根も足場の悪い岩場もゴリゴリと進んでいってしまう。
正直言って、すぐにスゴイなと感じた。

ロバの耳は何故ロバの耳というのかわからなかった。
印象としてはジャンダルムの部下といった感じだった。
鎖のある岩場のコースを飛騨側に取り、信州側に取り、
ジャンダルムの基部へと取り付いていった。

基部に取り付くと、穂高岳山荘で相部屋のおっちゃんが
すぐ下のコルを歩いていた。
声をかけてみたが、わからないようだった。

ジャンダルムへは西穂側から登る。
ザックをデポし、空身で登った。
短い距離ではあるが、ルートが不明瞭だった。

a0094280_2330013.jpg

ジャンダルムから奥穂高岳
a0094280_23303345.jpg

ジャンダルムから槍ヶ岳

ジャンダルムから奥穂の頂上にいる人が見えた。
穂高岳山荘から続々と人が登ってきているようだった。
一方、ジャンダルムの狭い頂上はO氏と俺と、奥穂の頂上で
一緒だった女性パーティ2人の静かなものだった。
もっと広い頂上だと思っていたが、案外狭かった。
イメージとしては涸沢岳の頂上みたいなもんだろうか。

a0094280_2331143.jpg

畳岩尾根ノ頭より!?西穂方向を眺める。

ほぼ一直線上に西穂、焼岳、乗鞍、御嶽山が見える。
西穂まではそれ程遠くはないが、何度もアップ・ダウンを
繰り返すのが、よくわかった。
横から見れば、それだけギザギザの刃の上を
歩いているということだろう。

畳岩尾根ノ頭を下った斜面の途中、陽当たりのいい
場所で再び朝飯を食らう。
ちょうど腹が空き始めたところで、朝飯はいいのか?と
O氏が声をかけてくれたのだった。
お言葉に甘えて朝食タイムにしていただく。
残りの朴葉寿司を食らう。
やはり、おいしく食べられた。

いつの間にか、単独行の男二人はパーティのようになっていた。
O氏は実力は勿論のこと、とてもユーモアのある人で、
歩きながら話していても、とても楽しかった。
生意気なことを言わせてもらえるなら、だからこそ全くの見ず知らずが
すぐに意気投合し、一緒に歩けたのかもしれないと思う。

朝飯を摂り、下ると間もなく天狗のコルだった。
コルには道標があったのは確認できたが、
小屋の跡は確認できなかった。

コルから天狗ノ頭へはまず鎖を攀じる。
鎖場は幾分登りづらい場所もありはしたが、
荷物がそれほど大きくないので、それ程困難ではなかった。
黙々と登ると、そこも絶景だった。
山だけでなく、上高地の宿もはっきり見えた。
360°遮るものは何もなく、素晴らしい景色を堪能した。
また、小さなケルンを作り、今回の目的の一つである慰霊もした。
天狗ノ頭付近で、去年、友達の父が亡くなったのだ。
友達から与った造花とマスコットをケルンの下に埋めて、
友達の父の冥福を祈った。

a0094280_23321112.jpg

槍から穂高への連なりが美しいラインを画いていた。
a0094280_23312793.jpg

天狗ノ頭から間ノ岳、西穂。アップ・ダウンがなければ、
西穂はもうすぐそこだ。

天狗ノ頭からの下りは、写真でもよく見た逆層のスラブだ。
写真で見るよりは斜度は緩い感じがする。
靴底と岩の摩擦を効かせ、慎重に下ればまず問題ない。
そこを下り切れば、間天のコルだ。
a0094280_2391810.jpg

間天のコル付近より天狗ノ頭を振り返る。
結構鋭い下りになっている。
a0094280_23104594.jpg

間天のコルからは、瓦礫の山とも思える間ノ岳を登る。
個人的には、この間ノ岳の登り降りが今回の山行中一番危険だと感じた。
何せ岩が脆い。浮き石も多い。
落石の危険がかなり大きいと感じた。
幸いにも落石は一つもなかった。

間ノ岳を下り、いくつかのピークを登り降りしたところで、
相部屋のおっちゃんに追い付いた。
おっちゃんは穂高岳山荘に宿泊した登山者と一緒に歩いてきたらしい。
おっちゃんパーティと夫婦パーティに道を譲られたので、
先行させてもらい西穂頂上へと向かった。

間ノ岳と西穂の中間位まで来ると、ルートのそばに
ハイマツの緑が目につくようになる。
それまで岩だらけのところを歩いていた為、すごく新鮮に感じた。
ハイマツの緑、岩の白、土の焦げ茶、そしてやせた尾根が
妙義山を思い起こさせた。

最後の鎖場を越え、ハイマツの岩稜を越えると、
そこは頂上だった。

やっと着いた〜!と静かに思った。

頂上には、西穂から来たというおばちゃん二人組がいた。
「奥穂から来たの!?すごいね」と誉められた。
何だか照れくさい感じがした。

a0094280_2334459.jpg

西穂高岳の道標が青空に向かって存在感を示していた。
a0094280_23334032.jpg

抜けるような青い空の中に槍や穂高が鎮座していた。

高い空の下、雲の大海原の向こうに富士山や南アルプス
が静かに浮かんでていた。
澄み切った青空のように、俺の心は平穏だった。
17年越しの目標を達成し、”気分上々↑↑”だった!
と言いたいところだが、ホッとしたというのが一番かもしれない。
静かな喜びが俺の心を支配していた。

少し休んでいるとおっちゃん達がやってきた。
お互いの健闘を讃え合った。

記念写真を撮ってもらい、景色を心に焼き付け、
去り難い気持ちを胸に、西穂山荘へと向かう。

ハードな登山道は終わったものの、独標までは案外キビしい。
とは言っても、これ迄の道よりは遥かに楽だ。
高度感は表妙義の稜線から石門を見下ろす感じよりは少ない。
ルートの感じとしては、谷川岳の西黒尾根上部みたいなものか。
このルートでは快適な部類に入るだろう。

ピラミッド・ピークを越え、独標を越えると、険路は終わる。
ガラガラした岩の道、歩きにくい階段を下り、
ハイマツの中を縫うようにできた緩やかな道を下る。
狭い道に大きな岩が所々見え始めると、山荘が現れる。

a0094280_23343034.jpg

山荘からは夏の陽射しを浴びた霞沢岳が正面に見えた。

念願だった縦走が終わった。
あとは上高地まで一気に下るだけだ。

山荘前の広場でO氏とゆっくり話す。
O氏は初日に新穂高から入り槍平泊。
2日目は槍平から南岳新道を登り、大キレットを越え、穂高岳山荘泊。
3日目に穂高岳山荘から西穂、新穂高というルートだったそうだ。
それにしても…テント泊でそのルートとは…。
やはりスゴい体力だ!
感服する。
本当はビールでも飲み乾杯といきたいところだったが、
沢渡から車を運転していかなければならない。
涙をのんで断念した。

陽射しは更に強くなり、ジリジリとしてきた。
いつの日かまた山で会えることを誓い、
先に下山するO氏を見送った。

下山する際に、山荘脇で休んでいたおっちゃんパーティに
挨拶を済ませ、上高地に向けて下りる。
この登山道は雨で流されたのか、途中かなり荒れていた。
樹間からのぞく前穂高や霞沢岳が目の高さから
見上げる位の高さになってゆく。

a0094280_23345750.jpg

立派な登山道入口が立っていた。

ここをくぐればもう観光地だった。
観光客の人の波にもまれ、河童橋経由でバス・ターミナルへ向かう。
場違いなところにいるような気分にとらわれながら歩いていた。

a0094280_23352368.jpg

河童橋から穂高を見る。

歩いてきた稜線は雲に隠れ、見えることはなかった。
けれど、あの雲の向こうを歩いてきたんだという余韻だけは
俺の心のなかに深く残り、梓川のせせらぎがBGMとなり、
心の奥底に深く深く沈んでいった。

ありがとう、楽しかったよ。
そして、出会ったみなさん、
俺を支えてくれたみなさん、どうもありがとう。


コース・タイム
穂高岳山荘(-/4:56)〜奥穂高岳頂上(5:27/5:37)〜
ジャンダルム(6:27/6:37)〜畳岩尾根ノ頭下部[2870m付近](10分休憩)〜
天狗ノ頭(8:00/8:10)〜間ノ岳(8:40)〜西穂高岳頂上(9:20/9:38)〜
ピラミッド・ピーク(10:03)〜西穂独標(10:16)〜
西穂山荘(10:48/11:34)〜西穂高岳登山道入口(12:41/-)


初めて大キレットを越えてから多くの歳月が流れた。
あの時奥穂の頂上からジャンダルムを眺め、
いつかは奥穂〜西穂を歩こう!と思ってから、はや17年。
結果論から言えば、もっと早くに歩けたと思うが、
これもまた良かろう。
その17年もきっと意味があったのだ。
その17年は無駄ではない。
(あまり山には登らず、テニスばかりしてたことも、バイクを
乗り回していたことも、きっと無駄ではなかったのだ。)
「やっぱり、俺は山が好きだったんだな」と思えたのも、
今回の山行で魅力的な人達に会えたのも、
そういった全てのことの上に成り立っている。
長い月日思い続けたことが漸く叶う、熟成された喜びってもんもある。
17年の歳月はやっぱり必然だった。
不器用でもいい、ノロマでもいい、鈍臭くてもいい、
自分が信じた道を歩いていければ、それでいい。

そんなことを帰りの車中で考えていた。

帰途、軽井沢の『Cafe Calm』に立ち寄り、
今回の山行のアドバイスを下さったマスターに下山報告。
すると、マスターは大変に喜んでくれ、コーヒーまでご馳走して下さった。
そのコーヒーは本当に最高に美味かった。
どうもご馳走さまでした。

家に帰ると、愛犬達が尻尾を振り、俺の帰りを待っていてくれた。
俺にも帰る場所がある。
[PR]
Commented by hyahya at 2006-10-26 19:56 x
改めまして、ひゃあひゃあと申します。
先日は、お立ち寄りいただき、ありがとうございました。
お互いに、とても楽しく、気持ちの良い3日間でしたね!
大キレットから先は未知なる世界なのに、
読んでいて、何故か懐かしい気持ちになりました。
山の話、食の話、さくら達の話…楽しみにしています!
※山の話ではありませんが…山中千尋さん、私も大好きです。
一度ライブで聴いたことがありますが、あの華奢な体から生まれるパワフルな音。
本当にびっくりしました。
Commented by torajiro-joshu at 2006-10-26 22:34
ひゃあひゃあさん、ようこそ!
そして、ありがとうございます!
実質、ひゃあひゃあさんが初めてコメントを書いて下さった方です。
(以前の2つは古くからの友達なので、カウントし難いのです。)
とてもとてもうれしいです!
また、長い極私的山日記を最後までお読みいただき、
本当にありがとうございます。
あの日記は本当はもっと詳しく写真を載せたかったのですが、例えば
長谷川ピークでの写真等は画像のサイズが大き過ぎてアップできないという情けない目に遭い、コース紹介という観点からみると、
内容が薄いものとなってしまいました…。
こんな間抜けなブロガーの日記ですが、
懲りずにまた遊びに来て下さい。
ところで、ひゃあひゃあさんも山中千尋さん、大好きですか!
俺もそうなんですよ。
山中さんは桐生市出身なので、コンサートツアーの度に
群馬で公演をやってくれます。
だから、俺は6回生で聴いたかな。
何回聴いても本当に最高なジャズですよね。

Commented by kerokerobouzu at 2009-07-19 03:29 x
寅さん、どうもです。

今夏穂高行く時の参考にと、今更ながらこの記事全編読ませて頂きました。
力の入った文章で、私も一緒に歩いているような気分になりましたよ。
いや~さすが寅さん、スバラシイです。

私はまだまだ南岳~西穂間を縦走する脚力も技術もありませんが、いつかは実現したいものです。
とりあえずは地道にスキルを磨かねば。
Commented by torajiro-joshu at 2009-07-19 10:27
★ケロボウズさん、こんにちは。
お読み下さり、ありがとうございます。
この無駄に長い”極私的山日記”は、あひるさんのものと違い、客観性の低い主観性たっぷりのものなので、あまり参考にはならなかったとは思いますが、雰囲気だけでも感じていただけたなら、僕としても嬉しいです。(笑)

実は、この南岳〜西穂縦走の自分の足跡を形として残しておきたく、
ブログを始めたのでした。(それ故、主観性たっぷりです…。笑)

ケロボウズさんの脚力ならば「南岳〜西穂」も問題ないと思いますよ。
また、技術において…もです。
好天をうまくつかめれば、きっと大丈夫です。(笑)

「いつか」が近いものでも、少し遠いものでも、
それはその時なりのよろこびがあると思います。
自分は、”いつか奥穂〜西穂縦走したい”と思ってから、
実現までに15年以上もかかっちゃいましたが、
その年月を経たからこそ感じられたものもあったと思ってますから、
一概に早期実現がいいとも思っていないのが本当のところです。

”長い間思い続けてきたからこそ、得られたもんもある”って思ってます。
早期実現してたなら、してたなりの登山スタイルの変化ってのも
あったと思いますが…。
by torajiro-joshu | 2006-09-05 23:22 | 山歩き | Comments(4)

私、寅次郎の好きな山、温泉、食べ歩き、愛犬(パグ)等に関して気ままに綴っていきます。


by torajiro-joshu