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寅次郎がゆく!

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雪の中へ、風の中へ…。〜残雪期槍ヶ岳山行〜(2日目) 1/2

3日の槍ヶ岳周辺の天気予報は、昼前後から崩れる見込み。
そして、夕方から回復傾向にあるものの、風が強いと…。

今日昼過ぎから雪が降ると仮定したら、4日の朝よりも、
今日3日の降雪前の方が雪の状態はいいだろう。
また、世間の休みよりも一日早く入山した為、
槍の穂先に取り付く人が、今日の方が少ない筈。
そして、明日の下山は上高地までとなると、約22kmと長い。
登頂してから下山よりも、下山のみの方が遥かに楽。

目を瞑りながら、じっとそんなことを考え、
今日の槍ヶ岳登頂→無事下山をイメージしていた。

ならば、やはり、もし登るのなら、
天気が崩れる前に頂上に立つしかあるまい。

腹は決まった。



4時過ぎに布団から抜け出し、出発準備を整える。

先ずは自炊。

しかし、この小屋は果てしなくキビシイ。
昨晩、小屋スタッフに自炊、飲食する場所を訊ねた。
すると、建物の中で火を使うな!作った食べ物は建物の中で食うな!
という内容の回答。

自炊の登山者にこんなにキビシイ対応の小屋は初めて。
天気良かったり、寒くなきゃ、まぁ、いいけど…。

外に出ると、思ったより寒くないので助かった。

外でそそくさと自炊、他の登山者らと同じスペースで飲食。

パッキングの為に小屋に戻ると、中年カップルが建物内で飲食してた…。

朝から、イヤな気分になった。

けれど、このカップルが悪いのだとは思わない。
なぜなら、小屋スタッフは、このカップルだけには小屋内での
飲食を許容していたからだ。

昨夕、小屋内での自炊及びそれらの飲食について俺が訊ね、
断られた数分後、同じように訊ねた中年カップルだけには
それらを許容していた。

意味不明だった。

おまけに、それを許容したスタッフは、その近くにいた俺に
向けて笑みを浮かべてくる。

更に、意味不明だった。

気を取り直してパッキング。

出発前に、小屋脇に大きな荷物をデポしてゆくパーティがあった。
後になって知ったが、知り合いパーティだった。

5時の出発予定を30分以上も過ぎてしまったが、
しっかり準備をして出発。

本日の好天と無事を祈る。
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小屋裏からはすぐに槍が見えた。

そして、意外なことにテント村?!
今年は、この時点では小屋裏にテントを張っていいようだった。

森の中のトレースを辿る。
しっかり踏み固まっていて、歩き易い。
ゆるい登りを歩いてゆく。

途中、辺り一面雪の中で、なんでこんなとこに岩の堆積!?と思った場所があった。
しかし、よくみると、土砂混じりのデブリだった。
自然の猛威を感じた。

ババ平に来ると、テントが数張りあった。
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ここから先は、大きな大きな雪の谷といった風情。

生で見るのは初めて。
その迫力に、思わず感嘆の声がもれる。

荒野を独りゆく旅人のような気分になり、谷底をまっすぐに進んでゆく。

聞こえるのは、アイゼンが雪をつかむ音、風の音だけ。
人の姿は遠くに見えるけれど、ひたすらに静寂の世界。

雪の中へ、風の中へ…、
キミに会いにゆくよ。
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両脇の尾根が壁のよう。

あちこちでデブリのあとが見受けられる。
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大曲の辺りだろうか?
そこから振り返る。

谷は未だ陽光を浴びず、陰鬱な感じ。

けれど、歩くには、日陰となり、ちょうどいい感じ。
陽射しが当たっていたら、さぞかし暑いことだろう。

とはいえ、標高を上げるにつれ風が強くなってきている。
晴れていても、そう暑くはないのかもしれない。
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槍も見えぬ槍沢をひたすらに歩く。

とりあえず、目標は、あの日向と日陰の切れ目。
あそこを目指す。
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その目標の日向まで来ると、斜度が増す。
かなりの急傾斜。

どこで休もうか、思案のしどころ。
あの急斜面の上か…?

日向に来たら、一枚脱ごうかと思っていたが、
吹き下ろす風が、その気持ちを簡単に萎えさせた。

雪のしまり具合がちょうど良く、ボコボコとした踏み跡をゆかず、
自らのトレースを描いてゆく。

徒に沈まないせいか、急斜面であっても、さほどキツくない。

振り返ると、富士山と南アルプスが見えていた。

天気はまだまだいい。
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天狗原分岐を過ぎた辺だろうか?

照り付ける陽射しが強い。

さきほどまで大所帯のパーティを横目に見ながら登っていたが、
いつの間にか抜いていたようだ。

この時も未だ、そのパーティが、たけさんのお友達のSさん、
Mさんのパーティだと俺は知らない。
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グリーンバンドと思しき急斜面を越えると、槍が見えてきた。

殺生ヒュッテも近い。
肩に小屋もしっかり見える。

が…、そこからが、槍ヶ岳山荘までへの最後の急登。
ここもかなりの斜面である。
転げた時は、それなりに危ないだろう。

途中、コースを外して休んでいたら、結構上の方から下山してくる
登山者がほぼ俺の真上を歩いていたのだろう。
そこから、500mlのペットボトルを落とした。
それは物凄い勢いで落ちてきて、俺の1mくらい脇を滑り落ちていった。
幸いにも当たらなかったから良かったものの、当たっていたら、
怪我をしていたかもしれない。
その下山者は、通りしなに謝っていった。
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振り返ると、常念、蝶。
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天狗池は真っ白な雪の下だろう。

まだまだ遠くに富士山や南アルプスが見えるものの、
さきほどより霞んできた。
(画像では、富士山はあまりよくわからないかも…。)
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同じようなペースで歩く、ボーダーのカップルと時折話しながら歩く。

こちらのカップル、槍沢を滑り降りた後、今日中に涸沢に行く予定と言ってた。
いやはや、タフだ!

殺生ヒュッテから先の急斜面の直登は、
風が強くなってきたこともあり、結構辛い。
吹き下ろす風が冷たい。

転げたら危険なので慎重に歩く。

数日前の雨と、その翌日の高温で発生した雪崩なんだろう。
小屋のスタッフが立てた旗竿も、いくつかデブリに呑まれていた。

よもや…とは思うが、慎重に歩く。

時折、登山者の落とす、小さな雪の欠片などが飛んできて、痛い。

上方から、スキーヤーが歩いて下山してきた。
そいつ、何を考えてんだか、俺の真上2mくらいのとこまで来て、
アイゼンに詰まった雪をガシガシとストックで叩いている。
その雪が破片となり、吹き下ろす強風に乗って、俺の顔目がけて飛んでくる。
いくつかが顔に当たり、痛かった。

キチガイだ!こいつ!

「オー、オー、雪が飛んでくるぜ。何考えてんだ!?」
思わず言ってしまったが、そいつはどこ吹く風。
ストックでアイゼンを叩いた時に、ストックの先が抜けて、
ヤツは狼狽えていたが、そんなバカなヤツのものを拾ってやる義理もない。
あっさり通り過ぎた。

昨年の表妙義のトレランくんといい、今回のスキーヤーといい、
下にいる者に落下物による危害を及ぼしておきながら、
本人は何とも思っていないって、一体何なんだろう?
マナー以前の問題だと思うのだが…。

酷い目に遭いつつも、なんとか山荘まで到着。
自分の中のスケジュール目標の10時までには小屋に着いた。

天気は、遠くの山が見えなくなりつつあり、予報通り、やはり、
昼前後から崩れるのかもしれない。

宿泊手続きをしてから登頂と思ったが、先に登頂することにする。
時間が遅くなるより、今の方が好条件と思ったからだ。
幸い、風も物凄く強いわけではない。
群馬育ちの俺からすれば、まぁ、許容の範囲内。

穂先に取り付くと、すぐにトラバース。
頂上直下の梯子の下の雪田が核心部とは思っていたが、
このトラバースも案外楽ではないだろう。
なぜなら、進行方向に向かって両足を並べて向けることができないからだ。
数mとはいえ、常に左右の足が前後となるポジションを取らざるを得ない。
片足スペースしかないということ。
怖いとは思わないが、慎重に歩く。

途中、ロープを出しているパーティに先を譲ってもらったりする。

頂上に至るまでで、最大の核心部と言われている雪田に取り付く。

僅か20m足らずであろう。
その雪の付いた斜面を、アイゼンとピッケルをきかせて、
慎重に登ってゆく。

雪の状態は悪くない。
それゆえ、特段困難なこともないだろう。
慎重に登れば、問題はないだろう。

しかし…、これはやはり、下りがポイントだ。
登りより下りの方がキツいだろうなと思う。
もっとも、山なんて、登るだけじゃなく、下って、無事帰宅してこそなんだが…。

核心部の雪田を越え、頂上直下の二段の梯子へ。
未だ頂上ではないが、来た!と思った。

二段の梯子を越えた時、素晴らしい景色が広がった!
ということはなかった…。

既に、四方の山々は遠望がきかなくなっていた。
俺の頂上滞在中に天気が好転することはなかった。

まぁ、それも仕方あるまい。
展望良ければ、それに越したことはない。
けれど、こうやって、無事に登れて、そこそこの景色が見られたんだ。

頂上では、槍沢を前後して歩いていた年配の登山者と
写真を撮り合った。
三脚を小屋に置いてきたので、助かった。

年配の方が下山して、僅かばかり、独りの時間。
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山頂に立った証拠写真をおさめる。

そして…。
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緑を抜けて、
雪の中へ、風の中へ、空の中へ…、
キミに会いにきたよ。
突然、独り、駆け出してしまったキミに…。
遠い空の彼方に行ってしまったキミに…。

今自分が近づけうる、空い一番近い場所。
そこに行けば、健太にまた会えるような気がしてた。

キミに会いたい。
また一緒に走りたい。

愛犬・健太には会えるわけもなかった…。

けれど、一方で思う。
健太は…、いや、健太だけでなく、ジュリアやらむねや、
おじいさんやおばあさんも、みんな俺の心の中に生きてるんだって…。

風が吹き抜け、寒い筈の頂上も、何故だかあたたかな気がした。

また来るよ。
いつかまた会おう!
いや、一緒に歩こう!

少しの滞在を経て、さぁ、下山だ。
長居は無用。
天候が悪化する前に無事下山すべき。
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下山前に、今年また歩くかもしれない裏銀方向を望む。

今シーズンはどんなとこを歩き、どんな景色に出会えるだろう。
考えただけで、ワクワクドキドキが止まらない。

一方通行の下山専用梯子を下りると、ザイルで確保された登山者が登ってくる。

何で!?

一方通行が優先されるのか?登りが優先されるのか?
この場合は前者が優先されると思うのだが、多少の理不尽さを感じつつも、
俺は梯子のとこで待った。

けれど…、風が吹き付ける中を待つのは辛い。
二人が登ってくるのを待つ。

体はどんどん冷えてゆく。
「さみぃ!」思わず、声が出た。

すると、おねーさん、上がってきて、「寒いですよね〜」って…。
……。
アンタらが俺を待たせてるからでしょ!と思ったが、俺は言葉を呑み込んだ。

入れ替わって、速やかに下山に取りかかる。

核心部の雪田は、無難に後ろ向きで慎重に下る。
その下の小さい雪田は、前向きで下れないこともないと思ったが、
ここも無難に後ろ向きで下る。
ここまで来て滑落したら、ちょっとみっともないし…。
基部のトラバースも慎重に…。

平坦なとこまで来て、やっと、ホッとした。
登頂は条件次第と思っていたけど、肩まで来たその日のうちに
きっちり登れて良かった。
あとは、星空の写真でも撮りたいとこだが…。

小屋まで来たら、休んでいたベテランと思しき登山者に声をかけられた。
下から下山風景を見てたらしい。
ルートの解説をしてもらい、ありがたくきかせてもらった。

とにかく、天気が崩れる前に、無事に登頂できて良かった。
明日になれば、また雪面の状況や天気がどうなるかわからないし…。

満足感を胸に、小屋前のテラスから、来た道を、
見え隠れする槍の穂先を俺はのんびりと眺めた。


2日目 2/2へと続く。
by torajiro-joshu | 2014-05-03 23:58 | 山歩き

私、寅次郎の好きな山、温泉、食べ歩き、愛犬(パグ)等に関して気ままに綴っていきます。


by torajiro-joshu